ボイストレーニングの潜在的な問題

これまでに様々な歌声のトラブル、発声のトラブルに直面するボイスユーザーの患者さんの声帯の診察、治療に、全力で取り組んできました。衛生指導、 投薬、点滴、また時には手術を通じて、声帯の病的異常を改善できるケースはかなり多くあります。しかしながら、いったん治療して良くなった声帯炎症や声帯結節などの疾患が、歌うことでまた悪くなるという「負のサイクル」に陥る症例もあります。

一般に音声医学では、「日常会話レベルに影響がでる発声のトラブル」に関しては、言語聴覚士による音声治療というリハビリテーションが適応となります。しかしながら、日常会話に問題がなければ、歌や舞台やナレーションなどのパフォーマンスに影響がでていても、音声治療が選択されにくい現状もあります。

海外ではSinging Voice Rehabilitationという概念があり、このような支援が医療の中で積極的に行われ、言語聴覚士の中でもSinging Voice Specialistという、歌唱リハビリを専門的に行う業種もあります。我が国では、本来の意味で、このような制度は十分に整っていません。

一方、ボイストレーニングに関しても、海外では、音声医学・音声学をベースとした手法が研究されている一方、我が国では、ボイストレーナー自身の体験や経験に基づく、 「独自のメソッド」「独自のボイトレ」「独自の理論」が数多くあります。例えば、「医学」「科学」「研究」というワードが用いられていても、ボイストレーナーの経験や独学に基づくものでは、時として逆効果になることも考えられます。

実際に、ボイストレーニングを受けたにもかかわず、十分に効果が出なかったばかりか、逆に声帯に炎症や病変の原因となる発声になってしまうこともあるのはとても残念なことです。

本来、声帯は人体であるため 、声帯の解剖学的・生理的な仕組みに関しては医師・言語聴覚士以外の立場で語られる言葉を信じるのは十分注意が必要ですし、また歌唱を考える上では、声帯や声道は音響学的な特性を持つため、音声学・音響学な専門知識も必要となるため、視野の狭い医学的知見だけでも十分ではないのです。

これらの問題解決のために、医学的見地、科学的見地の両面からの情報発信の必要性が、より一層高まっていると考えています。

そのような背景の中、数年前より音声外科医兼音声研究者として、何かできることはないのかと考え、発声のトラブルを持つシンガーを対象に、音声医学を基盤とするボイストレーニング(発声教育)を開始することとなりました。

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