声区 -ミックスボイス-
声区とは、「知覚的、音響的、生理的、および空気力学的根拠に依存する、完全な喉頭における事象である」と定義されます(1)。
習熟した歌唱者は、地声や裏声という代表的な声区に加え、その中間にあるミックスボイス(中声区)という声区を有します。
このようなミックスボイスを含む声区は、歌唱者や発声教師(ボイストレーナー)の間で、感覚的に捉えられることが多く(2)、様々な用語があり、客観的な知識の欠如が原因で混沌としていることが、問題となっています(3)。
特に我が国では、インターネット上などで、ボイストレーナー独自の感覚や経験に基づくミックスボイスについての誤った情報が流布しており、大きな問題であると考えております。
これまでに喉頭筋電図や電気喉頭計(EGG)を用いた研究がありますが、声帯振動の詳細な研究はありませんでした。
我々は、毎秒4000コマの高い時間分解能を持つハイスピードカメラを用いた高速度デジタル撮像 (High-Speed Degital Imaging; HSDI) に成功し、また音声スペクトルを用いて検討し、ミックスボイスの特徴を明らかにしました。
本研究は、米国で行われたTHE VOICE FOUNDATIONのシンポジウム(2019)、および音声言語医学会(2018)で発表いたしました。
また、ハイスピードカメラを用いた研究に続き、気流阻止法による発声機能装置を用いて声門下圧・呼気流率を測定し、空気力学的に声区の特徴を詳細に検討行いました。
空気力学的要素は、喉頭筋の調整とともに、声区の生成に重要であることが明らかになりました。
このような空気力学的コントロールは発声者の感覚に直結するため、 音声治療やボイストレーニングにも直接的に応用できるものと期待されます。
本研究は、音声言語医学会(2019)、および日本耳鼻咽喉科学会九州地方会(2019)で発表いたしました。 日本耳鼻咽喉科学会九州地方会では最優秀演題に選出され、研究奨励賞を受賞いたしました。
(1) Hollien. 1974
(2) 平野. 1983
(3) J.Sundberg. 1987